「詳細 日本のがん統計」小児がん版を世界に向け発信!
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2011年 小児がん最新文献紹介
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論文紹介 7.
VERY NEW!!
Pharmacogenomic Prediction of Anthracycline-Induced Cardiotoxicity in Children.
(小児患者におけるアントラサイクリン誘発心毒性の薬理ゲノム学的予測)
(20110910) 著者:Visscher H, Ross CJ, Rassekh SR, Barhdadi A, Dubé MP, Al-Saloos H, Sandor GS, Caron HN, van Dalen EC, Kremer LC, van der Pal HJ, Brown AM, Rogers PC, Phillips MS, Rieder MJ, Carleton BC, Hayden MR.
研究施設:
University of British Columbia, Vancouver, British Columbia
Montreal Heart Institute Research Centre and Université de Montreal
Beaulieu-Saucier Université de Montréal Pharmacogenomics Centre, Montreal, Quebec
Children's Hospital/London Health Sciences Centre, London, Ontario, Canada
Emma Children's Hospital/Academic Medical Center, Amsterdam, the Netherlands.
要約:当サイト内晩期合併症-部位別 心血管 にもまとめてありますが、アントラサイクリン製剤は使用を制限しなければならい場合もある、決して少ないとはいえない罹患率および死亡率をともなう心毒性を発現させることが知られています。本研究は、小児がん患者に発症する心毒性に関連する遺伝子変異体を探索、同定することを目的に行われました。研究は、カナダ人とオランダ人の小児の遺伝子標本 (アントラサイクリンを服薬した156小児標本を含む440標本) を用いた、カナダとオランダの共同研究として実施されました。その結果、遺伝子シンボルSLC28A3と命名されている遺伝子の発現に、アントラサイクリン誘発心毒性と強い関連性が認められました。また、SLC28A1およびABCトランスポーターと呼ばれる膜タンパク質遺伝子(ABCB1, ABCB4, ABCC1)にもアントラサイクリン誘発心毒性と関連性が認められました。見いだした遺伝子変異体を、臨床上の心毒性リスク因子と心毒性発症患者を3つのリスク群、高・中・低リスクグループを組み合わせた統計的予測モデルに当てはめると、高リスク群では、75%の精度でアントラサイクリン誘発心毒性を発現することが予測され、このうち36%は一年以内に心毒性を発症していました。一方、低リスク群においては、96%の精度でアントラサイクリン誘発心毒性を発現しないと予測できました。以上、本研究より、見いだしたアントラサイクリン誘発心毒性発現と関連する遺伝子変異体、SLC28A3をはじめとする遺伝子と、臨床上のリスク因子とを組み合わせた遺伝子リスク解析によって、アントラサイクリンをより安全に使用するために、心毒性を起こしやすい患者であるか検査できる可能性が示唆されています。
論文紹介 6. Risk of Thyroid Cancer, Brain Cancer and Non-Hodgkin’s Lymphoma following Adult Leukemia: A Nationwide Study
(20110821) 著者:Sune F. Nielsen, Stig E. Bojesen, Henrik S. Birgens and Børge G. Nordestgaard
研究施設:コペンハーゲン大学病院、ハーレブ病院(臨床生化学科、血液科)
掲載:Blood (online first: 12 August 2011)
デンマークの国家がん登録によって、1980-2007年の間に登録された15歳以上の成人白血病は18834人(慢性リンパ性白血病8582人;非慢性リンパ性白血病は10252人)。白血病経験者に発生する甲状腺がんのハザード比は4.9(2.8-8.5)、脳腫瘍では1.9(1.2-3.1)、非ホジキンリンパ腫では3.3(2.5-4.4)。甲状腺がん、脳腫瘍、非ホジキンリンパ腫における白血病発症後の絶対5年リスクはそれぞれ、0.14%、0.16%、0.46%でした。対照における甲状腺がん、脳腫瘍、非ホジキンリンパ腫の絶対5年リスクはそれぞれ、0.03%、0.08%、0.16%でした。以上の結果より、成人でも白血病発症後の甲状腺がん、脳腫瘍、非ホジキンリンパ腫の発現リスクは、小児白血病と同様、明らかに高いことが示されました。
 
成人 小児
論文紹介 5.
Anti-tumor activity of the HSP90 inhibitor SNX-2112 in pediatric cancer cell lines
(20110730) 著者:Danielle C. Chinn, William S. Holland, Janet M. Yoon, Theodore Zwerdling, Philip C. Mack
研究施設:カリフォルニア大学デイビス校血液腫瘍科・小児科
掲載:Pediatric Blood & Cancer (online first: 27 July 2011)
生体内タンパク質HSP90は、AKT,EGFR, HER2, p53などの腫瘍活性制御に関与するタンパク質を含む細胞内タンパク質の立体構造を正常に維持する機能を担う重要なタンパク質で治療への応用が期待されています。本研究では、HSP90阻害物質として合成されたSNX-2112の抗腫瘍作用を、神経細胞腫、骨肉腫、皮膚がん、およびリンパ腫の小児がんの実験的培養細胞8種を検討しました。その結果、SNX-2112単独投与でも小児がん腫瘍細胞の成長は抑制され、シスプラチンのとの併用では、試験した神経芽腫培養細胞と骨肉腫培養細胞のいずれにおいても相乗効果が認められました。以上、HSP90阻害薬が小児がん治療薬として期待されることが示されました。
論文紹介 4.
An integrated chemical biology approach identifies specific vulnerability of Ewing’s sarcoma to combined inhibition of Aurora kinases A and B
(2011724) 著者:GE. Winter, U Rix, A Lissat, A Stukalov, MK. Müllner, KL. Bennett, J Colinge, SM. Nijman, S Kubicek, H Kovar, U Kontny and G Superti-Furga
掲載:Molecular Cancer Therapy(online: 18 July 2011)
化学療法剤の投与組み合わせや、投与量を調整することによって、小児がん生存率は大きく改善されてきています。しかしながら治療にも拘わらず小児がん再発または進行患者においては、未だ非常に低い生存率の小児がんが存在します。ユーイング肉腫の3年生存率は80%、5年生存率では70%くらいに達していますが、ユーイング肉腫ではおよそ30%が再発または進行すると報告さています。再発患者における生存率は30%程度と報告されています。現在、ユーイング肉腫に奏功するとされているIGFと呼ばれるがん細胞の増殖を促進する細胞内タンパク質に特異的に作用する薬物の臨床試験が進行中です。本論文では、オーロラキナーゼ阻害薬が、ユーイング肉腫腫瘍細胞の成長・増殖を抑制し、治療薬として高い可能性が期待されることが報告されています。本研究ではtozasertibがユーイング肉腫腫瘍細胞を特異的に抑制し、また、ユーイング肉腫治療に使われている標準的化学療法剤の効果と相乗することを見いだし、その抑制メカニズムが、オーロラキナーゼ阻害に起因することを、オーロラ遺伝子のノックダウン法や、オーロラタンパク質との結合実験で証明しています。またマウスに移植したユーイング肉腫腫瘍細胞の成長も抑制することが確認されています。以上、本研究によって、現在臨床試験が進行中のIGFR阻害薬に加え、新しいタイプのユーイング治療薬の開発が期待されます。
論文紹介 3. Topical Review
Membrane Proteins: The Key Players of a Cancer Cell (がん細胞のキープレーヤー、細胞膜タンパク質)
  著者:Kim R. Kampen
著者所属:University Medical Center Groningen, University of Groningen, 小児科
文献タイプ:総説
掲載:The Journal of Membrane Biology(online: 6 July 2011)
細胞膜タンパク質は、癌の予後決定に関与し、各癌細胞のホールマークを演じることから、癌治療においてますます重要なターゲットとなっています。全く新しい技術が開発されたわけではありませんが、近年、この受容体過剰発現を利用した抗体療法、ナノキャリア・ドラッグデリバリー、術中蛍光腫瘍画像診断などが治療手段として見直されています。癌遺伝子プロファイルを知ることは、癌の特徴を知ることであり、癌の進行に関与する膜タンパクを決定、治療戦略の開発となる可能性があります。以下、各章タイトルとキーワードをまとめました。
1)癌生物学における膜タンパク質
トップ5癌疾患である乳癌、前立腺癌、肺癌、大腸癌、子宮頸癌のがん細胞におけるキナーゼ活性を促進する膜タンパク質受容体と受容体作動抗腫瘍薬
・血管内皮細胞増殖因子受容体(VEGFRs)
・上皮成長因子受容体(EGFR)
・ヒト上皮成長因子受容体2(HER2)抗腫瘍薬:PTK787/AK222584、sunitibsorafenib
2)予後に関与する細胞膜タンパク質
・乳癌:HER2、EGFRの過剰発現が予後に関与 → 抗HER2交代療法 HER2ネガティブにおける抗VEGFR-2抗体療法がPhaseIIIで試験中
・前立腺癌:EGFRが予後に関与。In Vitro試験のみで臨床試験は始まっていない。
3)治療に対する膜タンパク質
・B細胞リンパ腫、白血病:Rituximab, Rituxan-CD20
結腸癌、頭頸部癌、非小細胞肺癌:Cetuximab, Erbitux, Gefitinib-EGFR
乳癌、胃癌:Traztuzumab-HER2/neu, VEGFRs
進行性固形癌、白血病、悪性黒色腫、肝細胞癌:PTK787/ZK222584, Vatalanib-PDGFRs, c-Kit, c-FMS
進行性固形癌、難治性乳癌:Ramucirumab, IMC1121b-VEGFR-2
4)ナノキャリアー細胞膜タンパク質標的治療
・肝癌:doxorubicin-封入型 polyethylene glycol liposomal ナノキャリア
・神経膠腫:葉酸受容体ナノキャリア
・乳癌、卵巣癌:EGFR標的ペプチドによる受容体デリバリーシステム癌切除術における膜タンパク質蛍光イメージング
5)乳癌、卵巣癌、前立腺癌、神経膠腫の切除遺伝子発現プロファイル
183遺伝子の発現パターンが認められ、乳癌、髄芽細胞腫、肺癌、前立腺癌の予後との関連が確認されている。発現パターンに関与する膜タンパク質として、XPR1, CD59, LRP2, HSPC163, C5orf18, CDw92, TMC4, ZDHHC2, TICAM2, KDELR3, and ErbB-4が含まれています。
  小児がん治療にも幾つもの引き出しができ、こんな総説が掲載されることを願います。
論文紹介 2. Challenging issues in pediatric oncology
  著者:Ching-Hon Pui, Amar J. Gajjar, Javier R. Kane, Ibrahim A. Qaddoumi & Alberto S. Pappo
著者所属:St Jude Children’s Research Hospital and the University of Tennessee Health Science Center
掲載:Nat. Rev. Clin. Oncol. advanced online publication 28 June 2011
掲載タイプ:総説
この30年の間に、小児がんによる死亡率は50%以下にまで低下し、総合的に5年生存率も約80%に達しています。本総説は、生物学的小児がん遺伝子変異の研究をベースに実施された生物学的製剤の試験結果などを、最も信頼できる最新の研究報告をもとにまとめています。総説に使用された120報の文献中、37報は2010年掲載論文、2011年掲載論文9報、2009年25報、2008年15報。小児がんの分類の上では、「急性リンパ性白血病」「急性骨髄性白血病」「髄芽腫」「上衣腫」「神経膠腫」「小児脳腫瘍」「骨肉腫」「ユーイング肉腫」「神経芽細胞腫」「横紋筋肉腫」「軟部組織肉腫」「網膜芽細胞腫」についてそれぞれまとめてあります。「緩和ケア」についても記述されています。
 論文紹介 1. Social outcomes and quality of life of childhood cancer survivors in Japan: a cross-sectional study on marriage, education, employment and health-related QOL (SF-36)
  著者:Ishida Y, Honda M, Kamibeppu K, Ozono S, Okamura J, Asami K, Maeda N, Sakamoto N, Inada H, Iwai T, Kakee N, Horibe K.
論文発表代表施設:Department of Pediatrics, St. Luke's International Hospital, 10-1 Akashi-cho, Chuo-ku, Tokyo, 104-0044, Japan(聖路加国際病院小児科)
(共著者らの所属:愛媛大学医学部小児科、東京大学家族看護部、久留米大学医学部小児科、国立病院機構九州がんセンター臨床研究部、新潟県立がんセンター新潟病院小児科、名古屋医療センター小児科、国立生育医療センター疫学および医療政策、香川小児病院血液腫瘍科、)
掲載誌:Int J Hematol. 2011 May;93(5):633-44.

医療・医学発展の恩恵により小児がん患者の70~80%が長期サバイバー小児がん経験者となっています。日本の推定小児がん経験者数はおよそ5万人、20歳から39歳の成人のおよそ700人に対し1人の割合となります。小児がん経験者の数の増大により、経験者の社会的状態に対する研究が注目され、本件研究では、移植や放射線療法などの治療方法の有無を含め、小児がん経験者のSF-36(36-item Short Form Health Survey)サブスケールスコアーと社会的状態を考察しています。SF-36を含む220項目の調査に対して回答のあった189人の小児がん経験者(回答率72%)の社会環境状態および健康状態を調査した結果、56%の小児がん経験者が、身体機能や一般健康状態に対する晩期合併症を訴え、特にこれらの晩期合併症を抱える小児がん経験者においては就職率が低いことが示されています。日本人標準値と比較したSF-36調査のサブスケールスコアー解析では、機能障害は小児がん再発に、健康状態は晩期合併症の発現に起因する可能性が示されています。

なお、これらのデータの一部は当サイト内 で既にご紹介させて頂いております。ご参考ください。
1)Ishida Y, Honda M, Ozono S, Okamura J, Asami K, Maeda N,et al. Late effects and quality of life of childhood cancer survivors:part 1. Impact of stem cell transplantation. Int J Hematol.2010;91(5):865–76. 2)Ishida Y, Sakamoto N, Kamibeppu K, Kakee N, Iwai T, Ozono S,et al. Late effects and quality of life of childhood cancer survivors:part 2. Impact of radiotherapy. Int J Hematol. 2010;92(1): 95–104.

※SF-36は、アメリカで実施された医療評価研究Medical Outcome Study(MOS)で作成された健康調査票で、健康度、機能障害、心理的状態などのQOLを評価するために作成された科学的信頼性と妥当性を有する尺度で構成されています。

本研究筆頭著者・聖路加国際病院小児科医長・石田也寸志先生ならびに日本医科大学小児科教授・前田美保先生方がお書きになった「よくわかる小児がん経験者のために~より良い生活の質(QOL)を求めて~」 是非、お読みください。
   
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 文献データベース:      小児がん(7月11~7月17日)  (文献数: 69
 PMIDArticle Title
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